夏子の酒物語その8      兄を悼むはずの席で💧

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夏子の酒物語 第8弾です

前回までのあらすじ

夏子は、上司原田の激励を受けて、
夏子のコピーが全国紙に載る事に
なったという、晴れがましい成果を
病気のお兄さんに報告するようにと
告げられます。
東京の一人暮らしの家に戻った夏子は
、実家の兄に電話をかけましたが、
その時聞こえて来たのは、突然の
兄の訃報でした。
その時の様子を伝える電話口の母の
声がどこまで届いていたのか、すでに
夏子は気を失って倒れてしまったの
でした。

さて今回は夏子が、兄の葬式のために
実家に帰ってくるシーンからです。

駅まで実家の軽トラックで迎えに来て
くれたのが初対面となる草壁という、
がっちりした体格の好青年です。
夏子の兄の大学の後輩にあたり、
最近蔵で働きだしたという事です。
(ちなみに画像は、亡くなった
お兄さんのものです(^_^;))

この草壁というキャラは、この物語の
キーマンとなるほど重要な役割を
担いますが、その事は後からわかって
きます。

さてここから再現していきます。
「」内のセリフのみ引用になります。

駅を降りるとそこには、なつかしい
佐伯酒造のペイントが入った軽トラが
あります。そこに乗っていたのは、
夏子にとって初対面となる草壁だった。

「夏子さんですか」

「あなたは?」

「迎えに来ました・・・おれ草壁って
いいます」
「一週間前から蔵人として働いて
います。」

軽トラの中で、沈んだ気持ちを胸に
しながらも、蔵人に対する親近感から
草壁と少し会話します。

「珍しいですね」

「え?」

「酒蔵で働こうという若い人は
いないわ」

「いやあ若くないです」
「先輩とみっつ違いですから」

「先輩って・・・兄のこと?」

「ええ・・・おれプラブラ旅なんか
してて・・・食いつめて先輩に
拾われたんです」

「じゃあT大の醸造家?」

「おちこぼれです」
とにこやかに返す草壁。

しばらく近づいてくる実家をどこか
うつろな目で車窓に肘をかけた、
夏子は見ている。

そんな夏子に草壁が、話しかける。

「先輩からよくあなたのこと聞か
されました」

「・・・」
「どんなこと?」

「いくつになっても色気がない・・・
って」

(まあ無神経といえば無神経な言葉
ですね、兄を失ってショックな夏子に
全く気を使わない草壁は天然キャラかも)

兄の遺影の前で、背中を丸めた父に
夏子は正座をしてあいさつする。
このあたり昔ながらの地主の家系で
酒蔵を継いできた佐伯家らしいしきたり
がうかがいしれる。

「父さん夏子です ただ今戻りました」

「ああ・・康男にあいさつしろ・・・」

気落ちした心を隠そうともせず、沈んだ
顔を向けた父が言う。

気落ちしたままの父を後に、夏子は
お通夜の準備に忙しくしている、兄の
妻和子をみかける。

「義姉さん」

「夏ちゃん」

「なんで義姉さんが働いてるの?
休んでいればいいのに」

「いいのこの方が気がまぎれるし
・・・手が足りないの」

「あ あたしも手伝うわ」

「ありがと・・」

「・・・義姉さん」

「うん?」

「大丈夫?」

「・・・」
「ええ・・・・・」

夏子の問いかけに作業をしながら
義姉は、やつれきった顔をみせなが
ら答えたのだった。

お通夜での席には、地元の名家という
だけあって多くの出席者がいます。
その中に、同じ地元の酒屋の
黒岩酒蔵の当主(現代では株式会社化
している場合社長とも呼ぶようになり
ましたが、代々続くような名家では
当主という言い方の方が適切だったり
します。)もいました。

通夜の席でぶしつけにも、跡取りの
話を、気落ちしている夏子の父に
向けてくるのです。

「あととりの康男ちゃんがいなく
なってしまって・・・」
「この蔵は誰が継ぐのかね」

「黒岩さん・・・」
隣の席の者がたしなめようとする。

「わかっとる 通夜の席で不謹慎は
百も承知だ」
「しかし同じ新潟の酒屋もんとして
人ごととは思えんのだ」
「佐伯酒蔵といえば150年の歴史
を持つ酒蔵だ・・・」
「行く末を心配するのは当然だろうが」

佐伯家当主である夏子の父は毅然と
して返す。

「心配なんかしてもらわなくてけっこう
・・・」
「わしなりの考えがある」

「どうするね」
「夏ちゃんを呼び戻して御養子さんでも
とるつもりかね」
としつこく食い下がる黒岩。
「夏ちゃんどうかね」
「うちの息子はたしか夏ちゃんと同じ
中学だったがあいつどう思う?」

なんとこのライバルでもないが同業の
蔵の黒岩は、佐伯家の弱みにつけこんで、
のっとりを謀っているようだ。

お酌をしてまわっていた夏子は手を止め
困惑する。

「お おじさん兄の通夜ですから・・」

そのやりとりを聞いていた出席者たちが
聞こえるように、語りだす。

「黒岩酒造と佐伯酒造が養子縁組だと」
「月の露が桃娘のような酒になったら
世も末じゃ」
と笑いながら話している。

「なんかいったか?」
当然聞こえている黒岩が、少したじろぎ
ながら聞き返す。

それを受けて追い打ちをかけるように
黒岩酒蔵を笑いながらけなしはじめる
出席者たち、まりは佐伯酒造の味方を
しているというわけ。

「なあに ただのウワサじゃ
桃娘のんで目がつぶれてた者が
何人もおる・・・なんてね」
「あれは三増酒じゃない六増種だ
・・・なんてね」

一同大爆笑。

三増酒というのは、戦後米不足で、酒に
麹由来でない、アルコールを添加し、
また水あめ・化学調味料も加えて
味付けをした粗悪な質の酒の事で、
それよりひどいという言い方である。
黒岩酒造はやはり、そのような酒の
つくり方をしている雑な酒蔵という
事。
もちろん夏子の家の佐伯酒造は
純米酒をつくっている。

ここでたまりかねたように夏子の父
が叫ぶ。

「夏子は呼び戻さん!!」
「養子ももらわん」

静まりかえる一同。

「娘には自分のしたいことをさせている!
家の犠牲にするほどワシはケチくさくない」
「孫の隆男がおる」

隆男とは、ついこないだまで父である
康男に肩車してもらっていた長男で
まだ幼児。

「孫って 康男ちゃんの息子はまだ二つ
じゃろが」
なおもしつこい黒岩。

「ちょっと! 黒岩さん!
あんた分家でしょ!
いいかげんにしなさいよ」
なんと黒岩酒造とは、その昔佐伯酒造から
のれん分けしてもらって独立できた、
いわば格下の家だったという事のようだ。
事情を良く知る親戚の年配の女性が、
叱りつけるようにいう。

さらに立ち上がりながら叫ぶ夏子の父
「もういい!わしが100まで生きれば
問題なかろう」
「それがダメならわしの代でつぶしても
かまわん」
「たかが田舎の酒蔵ではないか!!」
勢いあまって、心にもない事まで言って
しまう父。

困惑しながら母がなだめようとする。
「あ・・・あなた」

せっかくの通夜の席が、黒岩のおかげで
ドロドロした雰囲気になってきたところに
すっと遅れて入ってきた人物がいた。

「庄司のばあ様!!」
「ムチャだ起きてきて大丈夫なんですか?」
近所の人たちが、心配で声をかける。
どうやら、近くに住む寝たきりの老人が
尋ねてきてくれたらしい。

なんとか歩をすすめながら、実はきっと
立っているのもやっとだったのでしょう。
以前から良く知った仲のなのか夏子に
手助けを、求めます。

「康男に会わせておくれ・・・」
「夏子・・・」

すばやくこのおばあさんを支える夏子。
「はい」

閉じられた棺の上に手をやり、語り
かけるおばあさん。

「雨の日も雪の日も・・・
年寄りの一人暮らしを案じて・・・
よう訪ねてきてくれた・・・」
「今日は わたしが訪ねてきたよ
康男・・・・・」

そう言って今度は棺にほほをすりつけて
さらに涙を流しながらつぶやくように
おばあさんは続ける。

「ええ子じゃ・・・」
「ほんとに・・・ええ子じゃ」

そのまましばらく棺に顔をふせたままで
いるおばあさんを見やりながら、先ほど
まで、康男を悼む気持ちをどっかに
やって、騒がしかった一同もしんみりと
しています。
そしてまたみんな康男の霊前で、本来の
あるべき心のあり方を忘れていた事を
恥じているようにも見える。
(まあ大半は黒岩のせいでもあるで
しょうが(^_^;))

そしてそれを運んできた康男の妻
和子が聞いていたのでしょう。
盆を置いて、座り込み顔を覆って
泣いている。
(そう心の中に、あたたかい心の持ち主
だった康男が蘇ってきたのでしょう。
悼む気持ちをわかち会える人が、
ようやく現れてくれて素直な気持ちが
あふれてきたという事でしょうね。)

“「」内セリフのみ
出典:「夏子の酒」
尾瀬あきら著
       講談社漫画文庫刊”

今回は、ここまでです。
兄の訃報を聞いて実家に戻った夏子は、
感傷にひたる間もなく、すぐに通夜の
席で、ひたすら神経をすりへらすはめに
なってしまいましたね。
それもやはり、地元の名家の跡取りの
葬儀だけに、身内だけでしんみりとは
いかなかったようです。
そして次回は、通夜の席を離れた夏子は
やはり酒蔵の天井部屋に祀ってある松尾
様(全国的に有名な酒を祀る神社である
松尾大社のことです。京都にあります
ので私もいつでもいけます。)の
ところへぶらりとやってきます。

さてこのあと夏子の人生を決定するような
出来事が起こります。

さてそれがなんなのか、気になる人は
次回をご覧くださいねーー(^_-)-☆

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無為あんみん〜天衣無法ブログ〜

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